「オタク」史に見る映像メディアと視覚の変容 〜岡田斗司夫『オタク学入門』より〜

グローバル・コミュニケーション特論(担当:高岡智子)でポール・ヴィリリオの『戦争と映画』を輪読してるんですけど、これがテクノロジーやメディアが人間の知覚を変容させる、みたいな話なんですね。


戦争と映画―知覚の兵站術 (平凡社ライブラリー)

戦争と映画―知覚の兵站術 (平凡社ライブラリー)

で、ふと「これって岡田斗司夫のオタク論じゃね?」って思って話題にしたところ「じゃあ来週レジュメよろしくね☆」とお願いされて書いたのが以下です。

  1. 「オタク」の起源
    • 慶應義塾幼稚舎出身の熱狂なSFファンが使い始めた
      • オタク系アニメ企画会社「スタジオぬえ」に就職
      • SF大会などファンの前でお互いを「オタク」と呼び合う
        • オタクたちへの爆発的な普及と差別用語化による急速な衰退
      • 超時空要塞マクロス』(1982年10月〜1983年6月)を作って大ヒット
        • ミンメイが輝(ヒカル)を誘うセリフ「おたく,そういう人?」[1]
    • 岡田斗司夫の主張する「オタク」
      • 「「映像の世紀」の20世紀に生まれたニュータイプ人種」
      • 「映像への感受性を極端に進化させた「眼」を持つ人間たち」
      • 定義
        1. 第1項目「進化した視覚を持つ人間である」
        2. 第2項目「オタクとは高性能のレファレンス能力を持つ人間だ」
        3. 第3項目「飽くなき向上心と自己顕示欲」
  1. オタク史における映像メディアと視覚の変容
    • オタクの発生
      • テレビの普及と同時=映像の日常化 ⇔ 従来の映像メディアとしての映画
    • 「原オタク人」とアニメーター
      • アニメの絵の雰囲気とスタッフ(作監/作画/動画)の関係を研究
      • うる星やつら』が崩した「原作の絵」
      • 金田伊功の登場による原画への注目
        • 極端なパースとポーズの連続によるアニメ文法の発明[4]
        • 影響を受けたアニメーターが自己主張と実験を開始[5]
    • ビデオデッキ登場以前
      • アニメ記録手段
        • テレビのオンエア中に画面写真を撮影
        • スタッフリストを大学ノートに書写
        • テープレコーダーのマイクでセリフを録音
        • 8ミリカメラで各シーンを撮影
      • アニメ雑誌の存在
        • 二度と見られるか分からない感動シーンを写真で再現してくれる媒体
    • ビデオデッキ登場以後
      • 80年SONY製「SL-J9(ジェーナイン)」[6](ベータマックス,β方式)発売
        • スロー再生,静止,コマ送りしてもブレず,ダビング時に劣化しにくい!
        • オタク支持層によりVHSと善戦
      • 映像記録の希少性
        • ビデオデッキ所持がステイタス
        • 1時間テープ「K-60」が8000円
        • 宇宙戦艦ヤマト』全26話で9万円近く
        • 消す前に何回も一生懸命見るから全カット覚える
          • ガンダムのセリフを全部いえる奴」
          • 「ルパンに登場した銃器を登場順にいえる奴」
      • 板野サーカスに鍛えられていくオタクの動体視力
        • アニメーター・板野一郎
          • 「近代オタク」な少年時代
        • 縦横無尽なスピード感を持つ「板野サーカス」[7]
          • バイク免許を取って前輪フレームにロケット花火をつけて砂浜走行
          • 両手一杯に50連発花火を持って浜辺で大勢が互いを撃ち合う実験
        • 板野サーカスは見る方にも運動神経が要求される」
  1. まとめ
    • オタクはアニメ分析過程で短時間/瞬間的な視覚を開拓することで進化した
    • 映像メディアとしてのビデオデッキは視覚の開拓を支えた
    • アニメ誌は写真メディアだが,映像メディアとの隣接性を持つメディアでもある
  1. 参考文献
  1. 脚注

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[1] 「「超時空要塞マクロス」 セリフ 第4話「リン・ミンメイ」 - MacroCosmos - マクロコスモス」,MacroCosmos - マクロコスモス - 「超時空要塞マクロス」,(2015/07/11取得,http://macrocosmosnet.web.fc2.com/macross/line-tv-04.html).
[2] アニメ第1話(作監小松原一男)と第9話(作監中村一夫)を参照
[3] 漫画家・久米田康治は絵の雰囲気が短期間で変わることで知られており,作品でネタにする様子もしばしば見られる.『さよなら絶望先生』もまた例外ではないが,株式会社シャフトによるアニメ作品ではシャフト独特の直線的で端正かつ美形なキャラクター・デザインが一貫して採用された.アニメ『さよなら絶望先生』第1期(2007年7月〜同年9月)のOP映像は次の通り.シルキア_00,2009/04/02,「さよなら絶望先生 OP「人として軸がぶれている」 - ニコニコ動画:GINZA」,ニコニコ動画:GINZA,(2015/07/11,http://www.nicovideo.jp/watch/sm6624364).
[4] Heavy Smoker's Atelier,2013/11/04,「銀河旋風ブライガー OP - Youtube」,Youtube,(2015/07/11取得,https://www.youtube.com/watch?v=UskqT2qcixQ).『銀河旋風ブライガー』は1981年10月〜1982年6月テレビ東京ほかで放映された全39話のロボットアニメ.
[5] kac62no2,2007/10/24,「Kanada style animation AMV/金田系作画MAD - Youtube」,Youtube,(2015/07/11取得,https://www.youtube.com/watch?v=0aEmATUt2SY).以上の映像は,金田に影響を受けたとされるアニメーター達による映像をMAD編集したものと見られる.動画説明文には「Kanada style is Japanese animation style started by Yoshinori Kanada(金田 伊功)」と始まり,「This movie is key animators Shinya Ohira(大平 晋也)Hiroyuki Imaisi(今石 洋之)……」以下15名のアニメーターの名前が並んでいることから,金田のアニメーターとしての影響力の大きさを窺い知る手掛かりと考えて良いだろう.
[6] 2002.12.15,「ソニーSL-J9」,マイプレイグランド,(2015/07/11取得,http://tarbou.ty-plan.com/06_audio/vtr/02_slj9/02_slj9.htm).以上に詳しい.
[7] Cacophanus,2009/04/08,「"It's The Circus" - Youtube」,Youtube,(2015/07/11取得,https://www.youtube.com/watch?v=BzXfVgYCxWI).
[8] Camus acuario,2014/03/11,「isamu vs gould Macross plus movie – Youtube」,Youtube,(2015/07/11,https://www.youtube.com/watch?v=5nMXj0oEaY0).動画では2:30周辺に顕著.


オタク学入門 (新潮OH!文庫)

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