日本史苦手な人こそ網野善彦『東と西の語る日本の歴史』

網野善彦『東と西の語る日本の歴史』(1998年、講談社
 

東と西の語る日本の歴史 (講談社学術文庫)

東と西の語る日本の歴史 (講談社学術文庫)

【引用】http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784061593435 内容紹介より

日本人は同じ言語・人種からなるという単一民族説にとらわれすぎていないか。本書は、日本列島の東と西に生きた人々の生活や文化に見られる差異が歴史にどんな作用を及ぼしてきたかを考察し、考古学をはじめ社会・民俗・文化人類等の諸学に拠りながら、通説化した日本史像を根本から見直した野心的な論考である。魅力的な中世像を提示して日本の歴史学界に新風を吹き込んだ網野史学の代表作の1つ。

元々ボクが興味を持っていたのは被差別部落で、この本を知ったきっかけは偶然見つけた部落差別に関する2ちゃんまとめ記事だった。

 部落差別に詳しいけど何か質問ある?(部落差別の歴史や文化について詳しく語られるスレ)
 http://world-fusigi.net/archives/8434990.html

地域史専攻を名乗る >>1 によると、特に東西の社会構造の差異が、それぞれの地域における被差別部落の形成過程に表れているという。勉強したいから本を紹介してくれというレスに対して挙げられていた本をアマゾンで調べて吟味した結果選んだのが網野氏の本だった。

日本史を勉強したことがなく「どうせ暗記科目でしょ」的な苦手意識を持っていたけど、この本はまさに日本史に対する印象を塗り替えてくれた。それは小説などが読めなかった中2の自分がハルヒを読んでドハマりした以来の衝撃だったと思う。もっと早く出会えていればよかったのに。

自分みたいな日本史に関心がない人間にとっての日本の歴史って、だいたい1000年くらいが貴族の時代で、そこから500年くらいなんか戦っていて、とりあえず1600年以降は江戸時代というのは知っていて、19c後半くらいから明治期、というお粗末なレベルだと思う。ここから脱出したかった。

学校で習った古代から中世史はいったいなんだったのか。これを朝廷権力を基礎とする公家政権による「西国国家」と、朝廷に従属しつつ自立した統治を目指す武家政権による「東国国家」、そして「東国―九州」「西国―東北」という地域同士の対立と連合という、地勢的な観点から立体的に理解することができる。

逆に湧き上がってきたのは、寺社勢力への興味である。本書では主に、朝廷と武家という権力主体が登場するけど、あくまで東西の差異を中心とする内容という都合上、寺社勢力の立ち位置や内実については細かに触れられなかった。これは良さげな新書を探してポチってある。

 伊藤正敏『寺社勢力の中世─無縁・有縁・移民』(2008年、筑摩書房
 http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480064356/
 

寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民 (ちくま新書)

寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民 (ちくま新書)

また、網野氏の知的情熱は中世日本史に極振りされていて、本書では江戸期以降についての東西論は課題として残されていたので、その後の著作に期待したかったが、残念ながら網野氏は2004年に亡くなられている。それでもこの労作のもつ価値は決して小さくはない。